ユーザーインタビュー

第2回 レコーディングエンジニア
高須 寛光(Hiromitsu Takasu) 氏 

第2回
レコーディングエンジニア 
高須寛光(タカス ヒロミツ)氏 
       
ビクタースタジオ所属のレコーディングエンジニア 高須さんがプロの現場でどんな思いで作業して、そこで何が起こっているのか。リアルなお話をお聞きすることが出来ました。


―KS-Digital C5-Referenceを知ったのはいつですか。

高須氏)以前(一昨年前あたり)自身の所属するビクタースタジオで常設のモニタースピーカーが更新されるときに他メーカーのスピーカーを10種類ほど試す機会がありました。
その時にKS DigitalのC5-ReferenceとC8-Referenceを試聴したのが始まりです。

撮影協力:ビクタースタジオ

-その時の印象はいかがでしたか?


高須氏)自分はビクタースタジオの203stのモニター環境が好きで、Mixで使用する際はポップス、ロック、EDMのリファレンス楽曲をMixするジャンルに合わせて聴きます。

203stのモニター環境が好きな理由はラージモニターとニアフィールドモニターの音色差が少ないことです。

モニターチェックの際も同じように3ジャンルの楽曲を高域、中域、低域に分けて、
ラージモニターとニアフィールドモニターをすぐ切り替えてどのような違いがあるか聴いてみるのですが、そのなかでもKS-Digital C5-Referenceがラージとの違和感がほとんどありませんでした。

高域、中域、低域のバランスがすごくよかった印象を受けました。

ただ、ビクタースタジオの常設ニアフィールド更新という意味ではサイズ感や音量のことを踏まえつつ、
いろいろな人が使うという事も考えて、その時は他メーカーが選ばれることになりましたが、自分はC5-Referenceに非常に興味を惹かれていました。

-ご自身の作業環境での試行錯誤みたいなことはありますか?

高須氏)ちょうど同じぐらいのタイミングで自分の作業スペース(個人所有のモニタールーム)の調整のさなかでして、吸音とか拡散材とか試行錯誤している時でした。

自分の使っているGenelec8330(DSP搭載)をその作業スペースで聴くと100Hzくらいにディップができてしまい、判断しにくく、やりづらさを感じていました。

ミックスの仕込み作業みたいなのも作業スペースで作りこみ、ビクタースタジオでチェックという流れが増えていたのですが、これだと作業スペースでの音作りに限界を感じていた頃で、ほかになにか良いスピーカーがないか模索していました。

-C5-Referenceを自身の作業スペースでした際に実際の感想はいかがでしたか?



高須氏)定在波とか、部屋に影響されにくいスピーカーがないのかな?と思っている中でお借りしたのですが、、、。

C5は同軸なのもあってか、スタジオで聴いているいつものリファレンスの音と非常に近くて、違和感がありませんでした。

それはまさに自分が作業スペースで聴く感覚というよりも、音場調整されたビクタースタジオで聴く感覚と近い印象でした。そのまま2、3曲ミックス作業したものを実際の上りがどうなんだろうと思い、ビクタースタジオにてチェックしました。

作業スペースと実際のスタジオの上がりの感じにそこまで差がなくて、「これはいける!」と確信を持ちました。



ビクタースタジオ203stのラージモニタースピーカーとC5の感覚的な印象はいかがですか。



高須氏)ビクタースタジオには多くのスタジオが存在しますが自分の中で、できた作品に印象の差がないのが203stスタジオだと認識しています。

203stを使うときはラージスピーカーを積極的に使うようにしているのですが、C5-Referenceで作業した素材は203stで作業したそれとの差が少なかったのにびっくりしました。

あとは限られたスペースで聴いた時の音の印象の差がないことがC5を使い始めるきっかけでもありました。



―他のニアフィールドスピーカーを自身の作業スペースで試したことはありますか?



高須氏)スタジオで使っているものと同じものがどうかも踏まえて、僕がビクタースタジオで使っているGenelec8330というDSP搭載のものと、その前は、ヤマハのMSPシリーズというパワードのシリーズのMSP7、musikelectronic geithainのRL906を試しながら使っていました。

―それらを使った印象は?



高須氏)いずれもなかなかしっくりこなくて、、、という感じでしたね。自分が試してみた感じでは。



-それぞれの印象は?

高須氏)MSP7の時は低域が持ち上がってブーミーに聴こえてしまっていたり、RL906は癖はあまりないと思うのですが、作業スペースで聴くとすごく高域寄りで、、、。

Genelecはルームアコースティックを測定してできるだけフラットに調整できるタイプなんですが、自身の作業スペースのディップの補正はDSPを駆使してもうまく調整できず悩ましいものがありました。

-作業スペースについて説明していただけますか。



高須氏)大体7畳くらいで。DIYで吸音材とか背面に全部貼っていて、大体スピーカーとの距離が90㎝から1メートルくらいの距離感です。
スピーカー同士も大体1メートルぐらいなのでモニターポイントは正三角形の感じです。

その環境で聴いた中では、圧倒的にC5は好印象でした。



―GenelecやYAMAHAは今もお使いですか?



高須氏)YAMAHAに関しては使っていなくて、Genelecに関しては、スタジオとしてのスピーカーとしては使っていて、その理由としましてはDSPを積んでいて調整が効くからです。

他の慣れないスタジオに行ったときに、GenelecのDSPを活用します。その点は非常に気に入っています。



-自身の作業スペース、ビクタースタジオ以外の他スタジオでC5の出番はありますか?



高須氏)現在はそこまでないです。現実はネームバリューがあるスピーカーが強いというか、クライアント的にまだまだKS-Digitalの認識は薄くて。

しかし自分はそれを打開したく、世にKS-Digitalを広めたい理由がそこにあります。「これ何?」って言われて『KSのC5(C8)です』、「あ、これいいんだよね。」みたいな流れができるといいなって思っているんです。

-まだまだKS-Digitalが主流(ネームバリューが薄い)ではないのも確かですね。



高須氏)ほかのメーカーはネームバリューという点では多くのクライアントに安心感にも繋がって。音を生む以外のところの安心感というのは実際感じます。

だからこそKS-Digitalの良さをもっと広めていきたいなと思っています。とてもよいスピーカーなので。限られた環境下でのニアフィールドには最適です。



-C5-Referenceについて具体的に良いと感じるところは?



高須氏)音量を小さくしてもバランスが崩れないところですね。それはエンジニアリングするにあたり非常に有利ですね。エンジニアの方はもちろんですが、自分は宅録環境で作業される方に是非聴いていただけたらなと思っています。

たとえば自分のように個人用の作業スペース、またはプロジェクトスタジオ、ボーカルRECとかダビングに特化している部屋とか。めちゃくちゃ大音量でやらないスタジオだったら間違いなくC5でも音量的には十分足りるので。そういうとこでC5がデフォルトモニタースピーカーになっていたらいいなと思うんですよね。

―やっぱりそういう整ったところがほんとうに少ないというか。
この音がちゃんと聴こえたらいいとか、そういう基準みたいなのはありますか?



高須氏)自分がニアフィールドも含めてモニタースピーカーということに対して求めていることが、気持ちよく聴くことではなくて、その音がどう鳴っているかを一番聴きたいので、僕はできるだけフラットに聴きたいですね。
かつ、レンジも広く、理想でいえば上から下までフラットに聴こえるのが一番よくて。

どうしても自分がいままで使っていたスピーカーも含めて言えることは、派手目に聴こえたり、逆に地味に聴こえたりだと、その時の録音、Mixの仕上がりを別の環境で聞いてみると違和感をおぼえることもありまして、、、。

フラットな環境でだと、歌で使っているマイクの音が実際にはこういう音だったんだということがすこしずつわかることも多くて。

原音という言葉の定義が難しいんですが、今そこで使っているマイク、H.A、コンプの音ができるだけ素直に聴けるものが自分がモニタースピーカーに求める一番のことではありますね。

―では、C5を仕事で使いたくても使えない、そんなときGenelec8330がそれに近いという事ですか?



高須氏)DSPで補正できるということは自分の求めるモニター環境に近くなることもありまして、Genelec8330は自分にとってはやりやすいモニターです。

-C5の、より細かい印象を教えてください。



高須氏)まずは先にも述べた通り大きい音でも小さい音でも帯域のバランスが良いと感じるところですね。

スピーカーの低域・中域・高域にかけての繋がりもなめらかだし。自分はほぼフラットに聴こえています。

200〜300Hzくらいでしょうか、その辺は少し持ち上がって聴こえるところはあるのですが、そこは心地良さ?として捉えられるくらいの感じです。

高域は少し柔らかいけど、解像度がわるいわけではないので、打楽器のピークや、Voの子音、シンバルの倍音感もしっかり把握できるくらい聴こえてくるので僕は違和感がないですね。

―初めてKS-Digitalを聴く人に、「低域のボリュームがあるね。」と言われることが多いんですけど、その辺はいかがですか?

高須氏)今まで何のスピーカーを使っていたかでも印象は変わりますよね。
たとえばいままでパッシブ系のスピーカーだとしたら、しっかりと低音感を感じることとなると思いますし。

最近の洋楽とかっていわゆるサブハーモニックというのかわかりませんが、スーパーLowがすごい入っているんですよ。自分はそこを聴きながらやりたくて。

KS(C5)もあのサイズながら低域の発音している解像度はすごいと思っていて、
そういう意味で自分はKS(C5)の低域は別に多いとは思いませんでした。

自分自身Genelec使用の際、サブウーファーも使用していてモニタリングしています。
サブウーファー使用すると20~30Hzくらいまで伸びています。

KS(C5)もあのサイズ感で多分40Hzくらいまで伸びていると思います。
それもぬるくないというか、ちょっとだけ40Hzいますじゃなくて、
しっかり40Hzいますっていう印象ですね。

―では、C5は低域が多いなというわけでは無くて、しっかり聴こえているという意味?



高須氏)僕はそうですね。実際特性を測りながらやっていますが、低域が多すぎということは無いです。



-低域の存在感について欲望のような。きちんとした環境下でなくても必要性を感じる?



高須氏)そういう恵まれた環境でない場合だから聴けないという事では無くて、そういう環境でもなんとか聴けるようになりたいなと思っていて。

もちろんきちんと音場調整されたスタジオでやることがやりやすいのが事実ではあるんですが、きちんとした環境でない場合でもC5は可能性を生み出してくれるのではないかと思います。

日本は海外とは違い、限られた狭い部屋で音楽を作っていく環境も多いと思うのですが、その中でもレンジを広く聞きけるモニター環境があれば、限られた環境の中でもよりよい音楽が作れたりできていくのはいいなと思って。

自分は今後の音楽制作の流れを踏まえて、そういった環境の中でもどんどんトライしたいなという気持ちは素直にあります。

―こういう世の中の流れも今ありますしね。いろんなスタイルのスタジオが生まれている中でいろんな音場環境で作業することが増えていますね。

高須氏)だからそういう意味では、C5は部屋に左右されにくいスピーカーだと思っていてます。

それってすごい武器なんだなとも思うし、いざ出来た音をビクタースタジオのラージスピーカーで聴いても遜色はないし、すごいなぁと思います。



―自身の作業スペースではスピーカースタンドをご使用ですか?

高須氏)スピーカースタンドの上に置きます。インシュレーターとかは使ってはいません。C5のスタンドもちゃんとしているので、振動も抑えてくれているし、上下のあおりとかすごい簡単に決められるのって、なかなかないんですよね。すごい良いと思います。

―ありそうでなかった構造だと思いますが。



高須氏)無かったですね。すごい良いです。



―DSPについての印象はありますか?



高須氏)僕がGenelec8330を使っているのもあって、DSPのEQとかに対しての、嫌悪感、違和感があまりないので、そこが分かれ道だとは思うんですけど、僕はDSPを積んでいるから音がいい悪いとかのイメージは抱きません。

それよりも、そこでどう鳴っているかを優先しているのもあって、たとえば多少音がツルンとしているとか、人それぞれの印象はあるのかもしれないんですけど、そこで実際聴こえているものがミックスしてみて上がりも良いという状況になるのであれば、自分は積極的に使っていくと思います。



―外見などはいかがですか?



高須氏)自分は木目調の木の自然な感じのデザインものを使っているのですが、めちゃくちゃいいですよね(笑)。
テンションが上がるスピーカーは選ばないと言いましたが、C5は見た目でテンション上がりますね(笑)。



―KS-Ditalに求めることはほかにありますか?



高須氏)はい。持ち運びできるように、フロントにカバーがあるといいなと思います。サランネットみたいなのがあって、保護しつつ持ち運べるみたいなものが出来るできるといいなと思います。

車に積んで、もってくるというのがそんなに大きくないからできるので、ケースというところも実は重要なのかな?
なんて思っています。



―巷で人気のATCの良さはどう理解していますか?



高須氏)主観ではありますが、ATC(SCM25a)はとても気持ちよく聴こえるスピーカーだと思っています。

自分の印象ですが中域の密度がすごいんですよ。歌周りとか。密度というのは音量だけでは無くて、解像度とか、奥行きも含めたところです。

上下は伸びやかで柔らかい印象ですね。いい意味でロールオフして聴こえるというか。下もすごい伸びていて、聴いていて気持ちいんですよ。

高域歌のシビランスが強く出ているものを聴いても、そこが痛く聴こえずきれいになっているんですよね。すごい聴きやすくなっている。

ここからは自分の話になってしまいますが、そういった点を踏まえると自分は良くも悪くも鳴っているものがそのまま聴こえてほしいので、よりシビアなものを求めてしまいます、修行モードですね(笑)。

気持ちよくモニターしながらMixを構築していく、自分のように粗探ししながらMixを構築していく、いろいろなやり方、考え方があると思いますので、自分のやっていく環境にあったスピーカーを求めて、出会えると本当に嬉しいですよね。



―KS-Digital C8-Referenceもかなりいい評価をしてくれるエンジニアが多くて。

高須氏)そういう意味でいうと、僕のイメージですがC5よりレンジが広い印象です。

ですが、若干バランスがちょっと高域寄りな印象があり、自分は多少レンジが狭くなってもバランスが取れているC5を選びました。
高域の伸びやかさを求めている方はC8いいと思います。



―分かれるんですけど、C8を選ぶ人はC5には行きようがない。それはそうだと思うんですけどね。でもC5はバランスがいいですよね。

高須氏)どっちもそういう風に、これがいいって言えるスピーカーって一社の中に二つあるってすごいです。同軸でかつあれだけ音量が入るのがすごいです。

―結構KSを選んでくれている人たちって、ものすごい自信を持ってプッシュしてくれるんですよね。本当にいいって。心からそう思っているよって人が多いという印象があります。

高須氏)本当にいい話だと思います。だって僕、Genelecめっちゃ使ってるのに、普通はそうは言えないですもん(笑)。

―そこが不思議だなと思うんですよね。 玄人好みっていうか。



高須氏)そこがやっぱり音の魅力、KSの魅力がつまっているんだなと思います。でもそこはやっぱり、聴いた人しか言えない何かがあると思っているので、とにかく聴いてもらいたいです。

-KS-Digitalをこよなく愛す高須さんの意見、とても参考になりました。ありがとうございました。

第3回目は
ドラマー/作編曲家/サウンドプロデューサー 佐々木章(ササキ アキラ)氏 
https://www.seedseekers.tokyo/blank-6

そのほか週ごとで多彩なキャストでレビューをご紹介させていただきます。乞うご期待下さい。



<プロフィール>
高須寛光(タカス ヒロミツ)
1980年生まれ 
https://victorstudio.jp/hd/takasu/

現:尚美ミュージックカレッジを卒業後、
ビクタースタジオに入社し、多くのアーティと音楽に接して、エンジニアリングのキャリアを積んで活躍中 。