第7回 音楽プロデューサー
レコーディングエンジニア
武藤 敏樹 (Toshiki Muto)氏
今回はクラシックレーベル「アールアンフィニ」代表の武藤敏樹氏にKS-Digitalの魅力について語っていただきました。
今回は実際の収録現場にてお話を聞くことが出来ました。
―この度は録音現場までご招待いただきありがとうございました。現場での取材ははじめてです。いいお話が聞けると期待しています。
まずKS-Digital C5-Referenceを採用されるまで、どんなモニタースピーカーをお使いだったのでしょうか。
武藤氏)そうですね。今まではGenelec1030を使っていました。
現在、レコーディングは自分自身でディレクター兼務でエンジニアを務めることが多いのですが、プロジェクトによっては他のエンジニアと組む場合もあります。
そういった場合は結構Genelecが多いようです。録音現場ではアンプ内蔵のパワードスピーカーが標準になってきているので、可搬性とかも含めてGenelecを持って来られる方が多いですね。
―武藤さんにとってGenelecのモニターの音の印象はどんな感じでとらえていますか?
武藤氏)Genelecは多くの方々がご使用されているとおり素晴らしいスピーカーだと思いますが、少し上が明るいというか、凄く上の高域ということではなくてちょうど耳を突くあたりの高域が明るい感じがします。
会場で生音を聞いた後にモニタールームに戻って聴くと、少し派手な音になっていることが多いようです。
――なるほど。同じ意見をよく聞きますね。
武藤氏)そういったキャラクターを差し引いて、常に仕上がりを想定してそれに合わせてバランスを取っていくのですが、それをしないと仕上がりが逆に少し地味になる傾向があるかもしれません。
―それはハイ上がりな部分をマイキングなどで計算しないといけないということですか?
武藤氏)そうですね。それに合わせてマイクロフォンのポジションを詰めていくということです。ある程度逆算しながら「Genelecなんだ」というふうにスピーカーの特性を自分で理解しておかないといけません。その部分に少しストレスを感じていたことも事実です。
―そんなころモニタースピーカーを模索してKS-digital Referenceシリーズに出会ったということですね。
武藤氏)そうですね。店頭で試聴したのですが好印象でしたね。C5とC8を試聴させて頂きました。
―試聴した結果、選択されたのはC5-Referenceでしたね。
武藤氏)そうですね。私の場合レコーディングはスタジオではなく、ホールの現場で使うことが多いので最終的にはサイズ感で選択しました。持ち運ぶ際に負担にならないということが今回のテーマでもあったので。
―改めてお聞きしますがC5-Referenceの印象はどうですか?
武藤氏)まず、演奏家が出している音がそのまま過不足なくナチュラルにモニター出来ることに、とてもいい印象を持ちました。脚色や虚飾がないというか。
それに加えて解像度もいいですね。このモニタースピーカーから鳴っている音がちゃんとしていれば、仕上がりも大丈夫だろうという安心感があります。
―ダメな時にはダメに聴こえるし、いいものはいいと正確に聴こえる。ということでしょうか。今現在はC5がメインで使われていますか?
武藤氏)はい、プリプロダクションではMAGICOのスピーカーを使っていますが、録音現場ではこのC5をメインで使っています。大きさがコンパクトで、持ち運びが便利なことも大きいです。
そしてコンパクトなのに、低域もしっかりとモニター出来ることはありがたいです。
もちろん細かい音のチェックはヘッドホンでも出来るのですが、やっぱり低域の確実なモニターはヘッドホンでは難しいので。これくらいコンパクトで、これだけ低域をしっかりモニターできるというのは非常に重宝します。
―こういう感じに慣れていない方がローが出過ぎなんじゃないかという意見もあるのですが、その辺はどう理解していますか?
武藤氏)以前、B&Wの800シリーズだったかな、クラシックでは標準的なモニタースピーカーなんですが、良く現場で使っていました。
昔はあんな大きなスピーカーをモニター用として持ってきていたんです。低音域は本当にバッチリ出ますから、あれを標準で使っていたのでC5-Referenceの低音が多いというイメージは全くありません。逆に低音をしっかりモニターできていないというのはものすごく不安です。
―確かに「出過ぎ」というよりは「豊かさ」と理解すべきでしょうか。
武藤氏)普通で考えると6インチのユニットから、低域はこんなに出てこないので、視覚的なものからすると、「お?」と思うのではないでしょうか。視覚と実音のマッチングにサップライズがありますね。
見た目よりも低域が豊かに出てくるので、一瞬びっくりしますが、そのへんはDSPによる部分もあるのでしょうか。
―そうですね。昨年発表されたC-Referenceシリーズの技術的な素晴らしさだと理解していただければと思います。
武藤氏)いままで使っていた機材はDSPのものがあまりなかったので、改めて感心しています。
―ところで武藤さんが一番現場で大事にしているポイントはなんでしょうか。
武藤氏)アールアンフィニでは、レコーディングフォーマットは全てDSDもしくはDXDを採用していますが、まずは演奏家の出す音が、過不足なく等分に色付なく隅々まできちんと収録できているかということです。
演奏家の出す音は素材ではなく、それそのものが命です。それを脚色したり自分の好みの色に染めることは避けるべきというのが私のポリシーです。
あと、レコーディング現場は時間との勝負でもあるので、機材の持ち運びや、セッティング、ポジショニングが神経質過ぎないことも重要です。
自宅のオーディオシステムとは違いますから、針の穴に糸を通すような細かい設定になるのは困るわけです。
―確かにそうですね。生の録音の現場では時間が命ですし。
武藤氏)そうですね。やはり時間的制約が大きい現場は多いです。
あとは、なるべく配線まわりはコンパクトに、回路的にも不要なものは極力排除して、コンパクトにスリムに極力ハイファイにということを録音ポリシーとして進めています。
無駄な色付けは極力排除したいということもあります。
―今回マイナーチェンジしてスタンドが標準装備されていますがいかがですか。
武藤氏)即座にハンドルでユニットの向きが変えられるのでいいですね。
軽いし、調整しやすい。録音現場ではとても大切なことです。
―この度はお忙しい現場にご招待いただき感謝します。生の現場でのお話を聞けて良かったです。
ありがとうございました。
第8回目は10月10日に更新予定
レコーディングエンジニア
山田 晋平(ヤマダ シンペイ)氏
prime sound studio form所属
<プロフィール>
武藤敏樹 Toshiki Muto
音楽プロデューサー、レコーディング・エンジニア
4歳からピアノをはじめ、第31回全日本学生音楽コンクールピアノ部門中学校の部全国第一位。東京藝術大学附属高等学校を経て、東京藝術大学音楽学部ピアノ科卒業。
㈱CBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社後、多数のクラシック・アーティストのCDアルバムをプロデュース。
プロデュースしたCDで「日本レコード大賞・企画賞」、「国際F.リスト賞レコードグランプリ最優秀賞」「文化庁芸術祭優秀賞」を受賞他、レコード芸術誌“特選”等多数のアルバムで受賞。
現在、ソニー・ミュージックダイレクトとミューズエンターテインメントのパートナーシップによるクラシック専門レーベル「アールアンフィニ」を主宰。
株式会社ミューズエンターテインメント 代表取締役。
葉山で1日1組のイタリアン・レストラン「ラサーラ」を主宰。