第8回 レコーディングエンジニア
山田 晋平(Shinpei Yamada) 氏
今回は長年にわたりレコーディングの世界でキャリアを積んできた山田氏にお話を聞きました。現在も。
prime sound studio formに所属され、豊富な経験をもとにクリエイティブなセンスを発揮されています。
―この度はレビューに参加していただきありがとうございます。
山田さんは長いキャリアを持っていますね。
山田氏)はい、私はSoundCityでこの業界のキャリアをスタートしました。
その後、AzabuWest、MIXER’S LABへて、現在はprime sound studio formに所属しています。
―スタート当時はどんな機材を使っていたのですか?また当時はモニタースピーカーを選ぶ時代でしたか?
山田氏)当時SoundCityではNeve、AzabuWestはAMEK Rembrandtのアナログ卓を使っていました。AMEKは日本で初めて導入されたコンソールでしたね。レコーディングはまさにSONY-3348時代。
モニタースピーカーに関して言えばエンジニアが持ち込み始めた頃ぐらいですね。
―当時、個人的にどんなモニターをお使いだったのでしょうか?
山田氏)私はそのころ個人でProAcを購入しました。当時GENELEC1031が流行っていた時で、ほかにも同軸のTANOYのGOLDが印象に残っています。他にはKRKもよく見ましたね。
―あえてProAcを選んだ理由はなんですか?
山田氏)Genelecなどのパワードスピーカーが流行ってきて、当時散々聴きました。ある時、代理店が持ってきたProAcがものすごく印象がよくて、一目惚れです。(笑)
―多くのキャリアの中で印象に残るものはありますか?
記憶に残るのはモニタースピーカー調整作業に、よく参加していました。グラスウールを持って天井裏につめたり、抜いたりと微妙な調整を散々繰り返しました。
―貴重なキャリアですね。
山田氏)そうですね。スタジオ音場調整の経験を積めたことが今にまさに生きています。
SoundCityでは当時のCst改装、AzabuWestは立ち上げから。
ON AIR麻布スタジオではCstのコンソール入替えプロジェクトや徳間ジャパンスタジオ移転リニューアルプロジェクト、prime sound studio青山改装時の音場調整と色々係わらせていただきました。
―エンジニアをやっていてもそのようなプロジェクトになかなかそんなに多く経験できないですね。
音響調整は意見を求められても的確につたえられないとなかなか難しいですよね。音をどのように理解して伝えていくのですか?なにかポイントはありますか?
山田氏)基本的にはスピーカーは好き嫌いなので、それをどう理由付するか。
簡単にいうと聴いた瞬間に感じた事を、素直に意見する事だと思います。
――最初のインスピレーションが大事だという事ですね。
バランスのとり方やスピーカーの使い分けなど如何ですか?
山田氏)はい、インスピレーションは大事だと思います。何人かで聴いているとその「場」が作る、なんとなくこっちだよね?みたいな雰囲気になってしまうことが多いので。特に長時間やってると初心が大事になってきますね。
スピーカーの使い分けは、細かいディテールやLowの調整はラージで。バランスはスモールで取っていきますが、どちらにも共通して思うのはレスポンスの速さ、そう考えてやってきました。シンプルですよ。
―今はモニタースピーカーも多くのラインナップが存在してチョイスも難しいですね。
山田氏)そうですね。イヤホンを買いに行っても同じ音をしているものは一つとしてないですよね。ヘッドホンとかもそう。みんな何を基準に選ぶのだろう?と思ってしまいます。
もちろん最低限これくらいのバランスというのはあります。それはモニタースピーカーも一緒ですよね。
それぞれのメーカーでもフラッグシップのように高価なものはそれを1つ超えていますが、安価なものだとここはいいけどここは。というものになってしまうのは仕方のないことですね。。
―たしかに一長一短ありますね。
山田氏)それでもコンシュマーとプロが選択するスピーカーは全然違って。
例えば機材でEQをいじったときにモニターからそれがどれだけ早くついて来るかというレスポンスは大事です。特に録音時。
今はコンピュータベースでインターフェースを通っているから仕方ないですが。
私達みたいにアナログが主流だった時代を経験した世代はつまみをいじってすぐにその変化がついてくる感じなんかも気になることがあります。
―モニタースピーカーについていえばパッシブはそもそもいいわけじゃないですか?DSP搭載機は遅延が宿命です。KSdigital C-ReferenceシリーズもDSP搭載機ですが何か感じることありますか?
山田氏)このC5はそのレスポンスがいいですね。反応がとても速いと思います。
例えばですがオケ中で音の変化がわかりづらい場合、EQなどをブーストして探しますよね。Qを絞って探している時についてくる感じ。何を探しているかというとピークを探しているわけですよね。それに素直に反応してくれるスピーカーというのが理想。
録音の音決めの時は時間勝負なのでパッと聴いて修正してを繰り返します。
レスポンスが悪いと、判断に迷いが出てくるんですよ。「あれ?」って。今かかってる?とか。考えてしまう時点でダメですよね。弦とか録っていて問題があるな?どこだろう?あ、ここか?というときにレスポンスが明確なものがいいモニタースピーカーだと思います。
―録る時とミックスの時と使い方が違う?
山田氏)使い方は一緒ですが、録りの時はよりシビアに求められます。
ミックスの時はいいのですが、録音の時はスピード感が大事ですね。
そういう意味ではこのC5-Referenceは優秀ですね。
―一般的にいうとADAMとかもそういう感じはあるのでしょうか。
ADAMはありますね。早いというか、分かりやすいです。
高域の感じが、良くも悪くもナチュラルです。ナチュラルという事はHiが聴感上ロールオフしているという事ですよね。
―現代の音楽シーンについて音質というか昔と比べると変化しつつある?
山田氏)今の録音はHiがなくならない。当時は卓やらアザーボードやらバス回線やら通ってピークが落ちてきます。ミックスもハーフ(アナログ1/2インチテープレコーダー)で作業していたので、いい感じにサチュレーションがかかって音の身が濃くなります。
今は録ったら2mixに落とし込むまで、劣化は少ないので。サチュレーションをかけたりとピークを削るという作業が重要になりました。
それがスピーカーにも求められていて、その時にアダムを聞き、私にはリボンツイーターが使いやすい、高域のピークを探しやすく空間もきつくないので見えやすいと思いました。
DTMになって、ましてやリスナーはヘッドホンやイヤホンで聞くのが大半になり、それをコントロールするのに、周波数特性上どのくらい高域がフラットに伸びているとかでなく、どんな音色で出ているかが重要に感じてます。
―あえてお聞きしますがC5が気にいった理由は?
山田氏)やはりナチュラルだからですね。非常に音楽的で聴きやすいです。あと先ほどもお話に出ましたが
コンソールのEQなど、作業間で操作したときに違和感なくそれがついてくる感じがとても助かります。
DSP搭載機にしては優秀です。我々プロのエンジニアにとっては非常に重要なファクターですね。
――確かに。
山田氏)あと現代の音楽にマッチした音になっています。MID-LOWが充実していて。中域にはすごく忠実で解像度が良いですね。
―低域に関してはどんな印象ですか?
結構みんな下が出すぎだとは言いますが、こんなものなんじゃないかなと思っています。
C5やC8はスタジオのラージモニターと聴き比べても低域の違和感がない。
ものすごくよくできていますよ。
私自身、スタジオのラージモニターは中低域が暴力的じゃないと!と思っています。変にフラットだとつまらない。皆よく言うモニターに盛り上がりを求める世界観ですよね。
要するに音は振動、波ですよね。それがきっちり整理されているのではなく、低域が腰に来るくらいが理想というか。(笑)
奥行きというか、でこぼこがあった方が感情的に気持ちいい。僕が思うDSPに違和感を感じてしまう理由はそこです。フラットすぎる。
KS DigitalのDSP処理は音作りのDSPではなく、モニターを修正するDSPですね。なのでまったくDSP臭さを感じさせない。
音作り自体はDSP頼りでなく素直で、久々に良くできているなと思ったスピーカーがこのC5でした。
―C8も併せてお試聴していただきましたがC8の率直な印象はいかがでした?
山田氏)そうですね。C8の方は、上が少し伸びています。なのでC8を聴くと、わりとツーウェイっぽい雰囲気ですよね。同軸という見た目があるのですけど、10Mなどと音程感は遜色なく聴けるのがC8でした。
クロストークのせいか私はC5の心地よい中域の感じが好みですね。
―例えば人とか、環境にマッチすれば活用の場がほかにもあるのかと。レコーディングの分野以外に何か可能性を感じますか?
C5は能力としてはいろいろな物を満たしていると思います。だから注目されているのかと。いわゆるモニタースピーカーとリスニングスピーカーの間にあると私は感じているので、作家さんミュージシャンの方々は演奏していて気持ちいと思います。なので自宅制作のモニターとしてオススメできますし、中域の繋がり方はポップノイズなど聴きやすいので、ポスプロとか映像のダビングスタジオにも向いていると思いますね。
僕たちはいわゆる「ドンシャリ」で育ってきて、レスポンスが良くHiの抜けが!みたいな時代のスピーカーが主流でした。テープ時代のHiが落ちることを配慮した音作りというか、箱鳴りの感じ。
それから材料なんかの技術が高くなってきて、Lowのスピード感やトランジェントの見えやすさも重要です。
昨今はそれに加え中域が充実しているものがトレンドです。
C5はそれを満たす世代の一端を担っているモニターだとは思います。
―レコーディング現場の生の声を聞けて光栄です。お忙しい中、本当にありがとうございました。
第9回目は11月12日に更新予定
作編曲家・プロデューサー/fhana
佐藤 純一氏(Junichi Sato)
<プロフィール>
山田晋平 Shinpei Yamada
レコーディングエンジニア
prime sound studio form所属
-略歴
SoundCityからAzabuWestを経て1997年~Mixsr’sLabに入社。ON AIR麻布スタジオに所属し、数々のアーティスト、エンジニアのセッション、CM音楽などに触れる。2007年フリーランスとしてMixsr’sLabとマネージメント契約を結び、ON AIR麻布スタジオチーフエンジニアに就任。2011年マネージメント契約をAzabu-O Studio(ON AIR麻布スタジオから名称変更)に移し継続してチーフエンジニアを務めるが、Azabu-O Studio 営業終了によりセルフマネージメントとなる。2017年~prime sound studio formとマネージメント契約を結び、現在に至る。