第9回 作編曲家/プロデューサー
fhána 佐藤 純一(Junichi Sato) 氏
―この度はレビューに参加していただきありがとうございます。
佐藤さんの活動についてお聞きしていいですか?
佐藤氏)fhánaの前にFLEETというバンドでデビューしたのが2006年。fhánaでデビューしたのが2013年。音楽自体は子どもの頃から好きで、家にあった玩具のキーボードを弾いて遊んだり、好きな曲を耳コピしたりはいました。中学・高校生のころから打ち込みで曲を作るようになり、その後は宅録をやっていましたね
―その時は、バンドをしていたのですか?
佐藤氏)バンドもやっていましたが、打ち込みでデモを作ってそれを頑張って演奏するという感じでしたね。
―中学・高校生の時は機材とかはどんなものを使用していましたか?
佐藤氏)当時は、今みたいなDTMがなかったので、ヤマハのQY300というハードのシーケンサーで打ち込みで作っていました。その後、大学に入ってからはカセットMTRを購入し、ドラムやベースをQY300で打ち込んで、カセットのMTRに流し込んで、他のギターや歌などを重ねるという、いわゆる宅録をやるようになった感じでしたね。
―カセットはマルチトラック。
佐藤氏)TASCAMの8トラックのものを持っていましたね。
カセットテープなのでサーというノイズが入るのですが、常にサチュレーションが強めにかかっている状態でそれが気持ちよかったですね。
そうやってカセットMTRを駆使して曲を作って、最終的にMDに落としていました。そこから、ハードディスクMTRが一瞬流行ったじゃないですか。
それを買って、でもそれを使ったのは一瞬で、そこからすぐ、大学3〜4年の頃にMac、当時はPowerBookG3とlogicを導入して、それからずっとMacとlogicですね。
―そこから急激に変わったんですかね。
そうですね、DAWになってから、変わったというか、逆に言えば、Macとlogicになってからは、基本的にはあまり変わってないというか。
僕より下の世代とか今の子たちはDTMから音楽をスタートする人の方がむしろ多いんじゃないでしょうかね。生の楽器でバンドをやるというよりも。
―独学で音楽活動を始めたのですか?
佐藤氏)独学ですね。大学も音大とかではなく、美術大学でした。
美大生の頃も、基本的に宅録で曲をつくってそれをライブで生のバンドで再現するみたいな感じで活動していましたね。
―独自の音楽の世界観はどこからつくられてくるものなんですか?
佐藤氏)自分の音楽的ルーツは、中高生の頃に好きだったYMOと、渋谷系と、90年代のオルタナティブ・ロックだったりするんです。そういうもともと好きだったものがベースにはなっていますね。今こうしてアニメタイアップ曲をたくさん作るようになるとは思っていませんでした。
―アニメーションの為の音楽を作るようになったのは、すごく自然な流れだったのですか?
佐藤氏)全然アニソンを作ろうとは思っていなくて。fhánaの前にやっていたFLEETというバンドでも、TVアニメのエンディング主題歌で2006年にメジャーデビューしているのですが、その頃はまだ現在のようなアニソンシーンではなく、僕自身もそれほど興味がありませんでした。実際、FLEETでリリースしたアニメタイアップ曲はデビュー曲だけです。
それがここ10年くらいで若い子にとっては、テレビドラマやテレビアニメの区別なく、垣根があまりなくなったというか。
それこそFLEETでデビューした2006年に「涼宮ハルヒの憂鬱」という作品が人気になって、曲もオリコン上位になったりして。そこから、「らき☆すた」や「けいおん!」、「化物語」などがあり、今日のアニソンシーンが出来ていったと思います。加えて2007年には初音ミクも登場してボーカロイドのブームもあり、それまでサブカルチャーだったオタク的なものが、メジャーになっていったと思います。
―その後に結成したfhánaでは、アニソンをやろうと思っていたのですか?
佐藤氏)そうでもなかったです(笑)。fhánaを結成したのは2012年頃で、アニメやアニソンに対する理解や興味は高まっていましたが、fhánaでアニソンを作るとは思っていませんでした。
それが、アニメタイアップのオファーがあって、2013年にデビューしました。
―今は4人で活動して、成功して。
佐藤氏)まだまだこれからですね(笑)。
―常に音楽的な引出がたくさんあるのですか?
佐藤氏)アニメ作品とタイアップすることによって、楽曲についてアニメ側から自分が思ってもみなかったオーダーがあることもあり。そういうオーダーに答えつつ、自分のもともと好きなものや、今やりたいことをかけ合わせていくことで、相乗効果が生まれていると思います。それに僕はfhánaだけでなく、個人の作編曲家として楽曲提供もしているので、色々なアーティストやミュージシャンと一緒に仕事することが刺激になっていますね。
―KS digital C5を知ったきっかけは何だったのでしょうか。
佐藤氏)お仕事でビクタースタジオのエンジニアの高須さんと知り合ってKS digitalのC5がいいと教えてもらいました。
実際聴いてみて、今の音楽にすごい合っていると思いました。最近は洋楽を中心に低音が重視されているサウンドがトレンドですが、このサイズ(6インチ)なのにちゃんと再現できているというか。それでいて、変な重低音でなく再現できていて普通に気持ちい音ってなかなかないですよね。
僕は外のスタジオでエンジニアさんにミックスしてもらうこともあるし、自宅スタジオで自分でミックスをすることもあるのですが、ここ数年、自宅ではmusik electronic geithainのRL906をメインモニターとして使っていました。KS digitalC5と大きさ的にはほぼ同じで、しかも同軸で、音も気に入っていたのですが、最近は低域が足りないと感じることが多くて。そこを何とかしたいなと思って、最初はサブウーハーを導入しようと思って、お店にサブウーハーを試聴しに行ったんです。
RL906に対して質の良いサブウーハーをを付けてクロスオーバーもきちんと調整すると、結構いいバランスで、サブウーハーを買おうかなと決めかけていたころに、KSDのC5がお店に並んでいて。
「お、これ高須さんが言っていたやつだ」と思い出して試聴したところ、サブウーハーなしで単体で使えるし、音質も良かったし、スピーカーのルックスも気に入って、C5を購入することにしました。
―その時、佐藤さんはこのKSDの高須さんのレビューはご覧になられてましたか?
佐藤氏)レビューは見ていませんでした。高須さん自身が口頭で絶賛しているのを覚えていましたね。
musikは坂本龍一さんとかも使っていたり、同軸のスピーカーでめちゃくちゃ音がきれいで、エンジニアやアーティストたちのあいだで流行り、一時代を築いたと思います。
でも、ラージサイズのものは別として、ニアフィールドサイズのもので最近のポップスや電子音楽を鳴らすと、低域が物足りないなと思っていました。
個人的なイメージですけどmusikはツルッとして滑らかな上品な音。KSはそれと比べるとワイルドというわけでは無いですが、楽しい音ですね。
C5は音楽的な楽しさがありながら、モニタースピーカーとしてフラットなバランスというのが良いですね。オーディオ的でリスニングにおける楽しさと、モニタースピーカーとしてのフラットなバランスを両立しているのが素晴らしいなと。
一般的にはモニターライクな音って、あまり面白くないけれど、制作する上ではそうでないと判断が出来ないというものですが、C5はそれが、楽しい音なのに、モニターとしても優秀で、さらに低域の出方も良いですよね。
―電子楽器とかの音を出してもいい感じなのでしょうか?
佐藤氏)判断しやすいですね。電子楽器だけでなく各音の質感がちゃんとわかるので。
以前よりバランスがとりやすくなって、作業が早くなった気がします。
―ストレスが軽減したという事ですか?
佐藤氏)そうですね。どうしても、前は低域をスピーカーで判断するには限界があったので、ヘッドホンでそこは補っていたのですが、(KSは)ヘッドホンで聴くバランスと、スピーカーで聴いているバランスの差がない気がします。
パワードのニアフィールドモニターが増えていったと同時に、世の中で流行っている音楽のアレンジ、ミックスの傾向もそっちよりになっていきましたよね。
業界のスタンダードだったYAMAHAの10Mって最近のモニタースピーカーと比べて、解像度も低いし、下も出ないしパコパコした音質でしたが、歌を中心とした中域のまとまり感じが分かりやすかった。
今は高解像度な環境が当たり前になって、それに合わせた音楽が作られるようになったのかなと。
レコーディングスタジオでは、ニアフィールドモニターとラージモニターがあって、低域に関してはラージで確認できるのですが、自宅環境では、ラージは設置出来ないし、低域が出るスピーカーはそこそこサイズも大きいし、家に置くとちょっとでかいな、そこまで音量出せないしな、と思っていて。
C5にしてからは、このサイズで、普通だったら大きいサイズのスピーカーじゃないと出ない低域を感じられるので、スタジオで聴いたときとの印象の差がなくなって、すごくやりやすくなりました。小音量でもバランスが良く、低域もちゃんと出ています。
―ほかに購入の決め手はありましたか?
佐藤氏)デザインも気に入りましたね。。
ウッディ―な感じがインテリアとしてもいいなと思いました。
あと、スタンドが最初からついていて、スピーカーがフローティングしている点がいいですね。musik RL906の時も、スピーカー本体を両サイドから挟んで吊るすタイプのオフィシャルのスタンドを使っていて、フローティングタイプのスタンドはあまりスペースを取らずに低域周りもスッキリ鳴らせるので気に入ってました。
C5も標準でフローティングタイプのスタンドが付いてきて、さらに角度も付けられるので、どこにでも設置しやすくて良いですよね。
―スピーカーだけでなく、ヘッドホンとかイヤホンとか最終的にそれで聴いている人たちを意識した作り方という事は考えていますか?
佐藤氏)そうですね、自宅環境でも、ヘッドホン、イヤホン、スピーカー数種類、すべてでちょうどよいバランスになるように作っています。
スピーカーもメインで使用しているKS digital C5の他にも、GENELECの8010やビクターのウッドコーンの小型スピーカー、他にもB&WのCDM1などがあって、ある程度バランスが取れたら、これらのスピーカーたちでも鳴らして確認しています。
とくに最近は、MacBook本体のスピーカーやiPhoneのスピーカーでも鳴らして確認していますね。やはりYou TubeやSNSや音楽ストリーミングサービス上で、スマホのスピーカーをそのまま鳴らして聴いているようなユーザーも増えているので。
僕自身も制作ではなく、普段ふつうに音楽を聴く時は、iPhoneで、イヤホンも別に高級ではないもので聴くことが多いですし。iPhoneをそのまま鳴らして聴くこともふつうにありますしね。
中型以上のスピーカーやヘッドホンやイヤホンなど高解像度でワイドレンジな環境と、スマホなどチープでローファイな環境、そういう両極端な環境に対応させる必要があると思います。
―サブウーハーは興味はあるんですか?
このC5はサブウーハーが無くても十分ですがあったらあったでさらにいいだろうなとは思いますね。
低域って小音量だと聴こえにくなってくるのですが、C5単体でも小音量時のバランスは崩れないのでとても優秀です。それでもサブウーハーがあれば、より小音量でも、大音量で鳴らしているのと同じバランス感で聴けちゃうし、本当の超低域も確認できるし、ラージに近い余裕がある音になるし、メリットは沢山あると思います。
―クリエイティブな現場のリアルなお話が聞けて光栄です。
本当にありがとうございました。
第10回目は
DUMB TYPE
原 摩利彦氏(Marihiko Hara)
<プロフィール>
佐藤 純一(サトウ ジュンイチ)
作編曲家、プロデューサー
fhána
-略歴
新潟県出身。
2006年、自身がボーカルを務めるユニット「FEET]でメジャーデビュー。2013年には自身がリーダー、メインソングライターを務めるバンド「fhána 」としてもメジャーデビュー。
10th シングル「青空のラプソディ」(TV アニメ「小林さんちのメイドラゴン」OP テーマ)のミュージックビデオでは、Youtube の再生回数 2900 万回を突破。他曲の MV を合わせた総再生回数は 6000 万回以上になる。
優れたメロディーメーカーとして定評があり、近年では作編曲家としても積極的に活動を開始。
2019 年現までにfhánと楽曲提供を合わせて19作品ものTVアニメの主題歌を担当した。
ロック・ポップスからエレクトロ、美麗なストリンクス・アレンシ゛まで多様なジャンルの楽曲を手掛けているほか、
音楽プロデュース、劇伴など活動の幅を広げている。
国内・海外でのライブ活動も積極的に行っており、アニソン / J-POP / J-ROCK / 日本 / 海外 などの垣根を超えた
自由なスタンスで活動を続けている。