ユーザーインタビュー

第16回 レコーディングエンジニア 山田 晋平(Shinpei Yamada) 氏


―この度は取材をお受け頂きありがとうございます。
―山田さんはC5-Referenceもお使いいただき、さらに今回私からA200mk2を紹介させていただきましたね。



山田氏)このスタジオ(徳間ジャパン様)でモニタースピーカーの更新があるという話になって、KSDを御社にデモ依頼をしましたね。その時にA200mk2を持って来て頂きました。聴いた瞬間、びっくりしましたね。こんなモニターがあるんだと。



―KSD以外の候補としては何があったのでしょうか。



山田氏)ATC、ADAM、Focalでした。サイズ感、値段帯からの想定として。



―各社アクティブスピーカーでDSP搭載も多いですが、各社違いを感じますか?



山田氏)デジタルっぽいものは感じますね。ATCはDSP搭載ではないですね。でもそのデジタル臭いのを唯一感じなかったのがA200mk2でした。それが驚愕でしたね。しかもアナログレコードでの試聴も試したのですが。



―そうなんですよね。



山田氏)アナログレコードのあのファットな部分、このA200mk2の表現力と相まっていいんですよね。このウーハーユニット、10インチサイズの良さが出ましたね。余裕のある感じ。他のスピーカーにない一つの特長です。



―エンクロージャーギリギリの設計ですけど。



山田氏)なのに上手に鳴らしていて。



―バランス崩れそうですけどね。



山田氏)本当はね。多少歌が引っ込んで聴こえるのはそのせいかな、低域が多いからそう聴こえるけど、多分引っ込んではいなくて他が、上下が伸びているんですよね。



―なるほどですね。



山田氏)そうなんだと思います。多分。それは使ってみてわかったことです。最初、聴いたときに歌の帯域、中域にガッツがないように聴こえていたけど。そうではなくて。



―ATCとKSDの2択になったとお聞きしましたが。



山田氏)そうですね。最終的には。僕はATCもかなり悩んだんですが。他のエンジニアがKSDを推してくれましたね。二人共通で言っていたのが長時間使っていても疲れない。バランス良いと。あともう一方ベテランの女性エンジニアさんも聴いていただき、圧倒的にKSDを推してくれましたよ。



―うれしいです。山田さんの中ではATCとKSDは五分五分だったと。使い勝手の違いだけで。



山田氏)このスタジオの責任者の森田さんからのコメントですけどKSDを選定して良かったところは、ここのスタジオの作業は演歌や歌謡曲が多く。ポップス、ロックもあるのでそういう意味でオールマイティなスピーカーを導入出来てよかったと思ってます。とのことでした。

―私も最初驚きました。どうなんだって。ディップがあるように聴こえたりしてました。



山田氏)じゃないんですよね。単純に上下(高域・低域)が広がっているから。特に低域の量感がふくよかで大きいので当然量が多いほうに負けるから引っ込んで聴こえるけど低域が出ているだけで。



―低域のEQ調整はしたのですか。



山田氏)いや高域を調整して使う事が多いですね。他のエンジニアさん含め。私はEQは全くいじっていません。
例えば他のエンジニアさんのMIXの時のセッティングを観察するとリアパネルのHIGHの調整をしていますね。



―併用してYAMAHA NS-10Mもお使いですね。



山田氏)使います。A200mk2は上下が伸びているので歌が引っ込むから必ず10Mでチェックしています。
そういう意味ではATC(SCM25)は優秀だと思います。あれはコンパクト、タイトなので、それなりの音量で作業し、後のラフミックスに時間もかけられない場合。ATCだとそのまま渡せますが、A200mk2は10Mで確認していますね。きっとミッドフィールドモニターなんだと思います。ATCはまだニアフィールド寄りだと思います。A200mk2はラージモニターっぽい感じがあるっていうか。



―確かに。比較するモニターが欲しいんですね



山田氏)そうです。ここでMix作業していてベースなどトランスを通して録り直したりするのですが。低域が気持ち良くてあげ気味になる。
その量感で歌のバランスとっていると、イヤホンとかでは歌が大きいってなっちゃったり。なのでそういう慣れは必要ですね。



―10Mを使っていてもそうなる?



山田氏)音作りの時はほとんどKSD。10Mは単にバランスをとるときだけ。ディテイルをやったり、リバーブ感などまでKSDで作って、私は歌を中心にバランスを見ていくからそういう時にはちょっと慣れないと、もう慣れましたけどね。最初は戸惑うと思いますよ。



―導入してもう半年ですかね。



山田氏)録り(録音)に関しては本当に奥行きもあるからいいですね。



―このスタジオのブースではどこまでのサイズの録音ができますか。



山田氏)ドラム収録はできます。



―何でもできるんですね。



山田氏)弦楽器収録もSoloなら出来ます。ラジオ収録もやります。



―スケジュールもほぼ埋まっていますね。



山田氏)そうですね。モニター環境をちゃんとしたからだと思います。



―なるほどですね。



山田氏)今までADAMの小さいモニター環境だったので。



―ほかのエンジニアさんは何人いらっしゃるんですか。



山田氏)あとお二人いらっしゃいます。そのエンジニアさんたちもA200mk2をすごく気に入って。そのうちの一人のエンジニアが超気にいって激推ししていました。

―素晴らしい。オールマイティ、うれしいですね。



山田氏)KSDはモニターというよりリスニングに近い雰囲気もある。でもこれで全然作業できるし、かといってリスニングスピーカーのように緩くて掴みどころのないというわけではないのです。
ナチュラルなモニターですよね。聴いたみんなの第一印象がナチュラルでした。ぱっと聴いて「あ、こういうスピーカーね。」って個性を感じるスピーカーはそれぞれあるけど。なにか変な癖があるというのは無くて聴いた瞬間にみんな「なにこれいいじゃん。」ってなって。



―やっぱり第一印象が。



山田氏)第一印象がすんなり入れるっていうか。で聴きこんでいくとATCみたいにずらっと並んでいるんじゃなくて、こっちは奥行きがあるっていうのが割りとポップスや演歌のエンジニアさんたちにも気に入られて。



―そう奥行き感を感じますね。



山田氏)そうですね。



―それはほかのKSDのラインナップにも感じて。



山田氏)その技術がA200mk2にも入ってるんですよね。すべての帯域を同時に発声するという。



―そうですそれがFIRTECです。



山田氏)多分それでナチュラルに聴こえるんだと思う。

―位相管理技術ですね。



山田氏)位相が良いかというと普通なんですよね。これは。いいとも悪いとも思わないというか。でもほかのメーカーと比べるとこっちが良いなって思って。それだけナチュラル。当たり前のことが当たり前にできてるっていう。



―アナログアンプに近づいているっていう事ですかね。



山田氏)そうです。意外と速いしね。EQとかいじっているときに。



―改善点とか。



山田氏)使い勝手ですね。これ1本では出来なくて、ATCだと最初からMIXの最後まで出来る。まあラジカセは聴くにしても、A200mk2はもう少しレンジのコンパクトなものと置き換えないと、上下が伸びすぎているという弊害はあると、使ってみての感想です。



―そうですね。仕方ないですかね。



山田氏)小音量で作業していても低域がしっかり聴こえるのでそれは良いことなんですが。普通だったら低域の伸びがなくなって歌が前に出てくる。それがないんですよねこれは。ちゃんとバランスよく音量が下がる。なので歌が大きくなりがちに。ウーハーの口径の大きさのいいところが悪いという事もあったりとか。



―そうなんですね。



山田氏)普通は音量が小さいと低域がなくなるんですけど。それがA200mk2は無いんですよね。ちゃんと聴こえます。



―勉強になります。素晴らしいコメントありがとうございます。
あと今回同時に導入した電動昇降式スピーカースタンドについてお聞きします。
スタジオイクイプメント製INST-1についてですが使い勝手はいかがですか。



山田氏)あれめちゃめちゃいいですね。お気づきかどうかわかりませんが前はこのスタジオのスタンダードは10Mとの高さを揃えていましたが、最近発見したんですが少し上にあげて使うと扱いやすいです。これは。



―そうなんですね。



山田氏)低域は部屋の真ん中あたりで聴くと良いんですよね。今どきの低域の豊富な音源だと部屋に対してのスピーカーの高さにするとすごくローエンドがわかりやすいっていうのがあります。こんな実験ができるのはこのスタンドだけです。スタンドが伸びなかったら(伸縮)気付いていませんね。



―それは凄いですね。



山田氏)スピーカーを部屋の高さに合わせる。卓の反射から逃げるではなく部屋の高さに合わせることができると低域のいじり方が変わるっていう。下手にプラグインを活用するより理に叶っています。



―これは大発見です。



山田氏)本当そうですよ。

山田氏)もちろんもちろん。あとはエンジニアの位置じゃなくて後ろのクライアントに大きく聴かせるときはちょっと高くしてやったりとか。そうしたらみんな納得してくれます。
A200mk2は10インチのウーハーを持っていますから高さを変えてローエンドを確認することができます。



―スタンドが昇降することで判りやすいってことですね。



山田氏)このスタンドに多分10M載せて動かしても何もわからないかもですけど。(笑)



―多分音像が上に上がるだけ。



山田氏)そうそう。曲のサビのところにめちゃ低いローがいて。



―そのローも音程があったりして。



山田氏)そうです。それでリズム取ったりとか。サーバン・ゲネアやマニー・マロクィンが、ああいう音を作り始めて。サビだけベースのローがずーっと降りていったりとか、音質が変わるのとか流行ってるんですよね。逆もあったりとか。
でもそういう風に作ってるくせに、サビだけローが抜けて聴こえたりします、ローを入れすぎている場合もあるので、そういう曲のコントロールはめちゃめちゃやりやすいですよ。



―見えるんでしょうね。



山田氏)Aメロからずっと違う帯域のベースを並べるにはすごく便利。その時にちょっと上げたりとかすると、部屋鳴りで出来るから一番信頼できますね。



―それはスタンドのおかげ。



山田氏)スタンドのおかげだと思うし。このスピーカーにこのスタンドは面白いというか。ATCもここまでローエンドは伸びないから、あんまり上下させても効果が期待できないけど。ATCはどちらかというとあおりのほうが効果あるかもしれませんね。
レコーディングにはA200mk2が一番いいですね。10インチのウーハーはいいです。ラージ寄りのニアフィールドモニターとしてお勧めですね。サイズや重さも持ち運ぶにもギリギリ大丈夫な感じです。



―ありがとうございます。



山田氏)アナログレコードで山下達郎さんの「クリスマスイヴ」を聴いたときの感動が。(笑)かっこいいこのBassってなっちゃいました。(笑)だまされた感あるんだよな。(笑)



―だましてないです。(笑)。



山田氏)(笑)。未だに感動するんですね。きっといい感じでリスニングの感じを持ってるんでしょうね。きっと。
エンジニアが使える範囲で。ナチュラルで盛り上がれる。GenelecやATCとは違うナチュラル系の存在としてファンがいそうな気がします。



今回は貴重なご意見ありがとうございました。


<プロフィール>

山田 晋平 Shinpei Yamada

-略歴

1993年~SoundCityに入社

1997年~Mixsr’sLabに入社。ON AIR麻布スタジオに所属し、数々のアーティスト、エンジニアのセッション、CM音楽などに触れる。2003年アシスタントチーフを経て、エンジニア契約へ、

2007年フリーランスとしてMixsr’sLabとマネージメント契約を結び、ON AIR麻布スタジオチーフエンジニアに就任。

2011年マネージメント契約をAzabu-O Studio(ON AIR麻布スタジオから名称変更)に移し継続してチーフエンジニアを務めるが、Azabu-O Studio 営業終了によりセルフマネージメントとなる。

後にまねきレコーズに所属、引き続き多数のセッションに参加する。

2017年~prime sound studio formとマネージメント契約を結び、現在に至る