第23回 TSUBASA Studio 茨木 直樹(Naoki Ibaraki)氏
この度は取材をお受け頂きありがとうございます。
―茨木さんはビクタースタジオでエンジニアのキャリアをスタートして。
茨木氏)ビクタースタジオには11年くらい在籍していました。それからフリーランスでもう15年以上経ちますね。
うちのスタジオに来られるミュージシャンの方、KSDユーザーがまあまあ多くて。アレンジャーさんの方も多いですね。
―そうなんですね。少しづつですがKSDも浸透しつつあります。
茨木氏)楽器屋さんで見てる人も多いみたいですよ。
―C5とか自宅サイズにはちょうど良くて。
茨木氏)C5は僕も他のスタジオで聴いたことはありました。
―今現在はここTSUBASA STUDIOで。
茨木氏)そうですね。2017年ころから、ご縁があって借りることにしました。
―という事はもう今はここが茨木さんのホームグラウンドですね。
茨木氏)そうですね。現在はご縁のある関係者のみで使用してますが、そろそろ来年あたりからちゃんと外貸しを始める予定です。笑
元々ここは「SoundSkyStudio」だったのでラージモニターや大きいコンソールがあったんですけど、自分が初めてここに来たときにはもうなにも無くて、今はコンパクトなSSLのモジュールを中心に各種機材を取り揃えて使用しています。
―このスタジオのお仕事的には音楽のジャンルは絞られていますか。
茨木氏)結構割となんでも。ロックバンドもあるし、演歌もあるし、劇伴もあります。
―勝手にバンドものが多いのかなあと思っていました。
茨木氏)声優さんとかシンガーソングライターさんとかも。「来るもの拒まず」です。(笑)
―スピーカーについてですけど今現状はKSD C88とGenelecですね。
茨木氏)そうです。Genelec 1031。
―この組み合わせになる以前は何をお使いでしたか。
茨木氏)YAMAHA 10M StudioとGenelec 1031です。あとFocal使ったりATC使ったりですね。
―KSDの立ち位置としては。
茨木氏)KSDは基準になります。昔はスタジオには必ず10Mがあって、好き嫌いではなく、それが基準になっていた。それに代わるものを探していました。もちろん10Mとはサイズ感もレンジ感も違うんですけど、C88はいい意味でサウンドはフラットな感じで、好き嫌いをこえて、スタジオの基準になりうるスピーカーかと。音もいいですし。聴いていて気持ち良い音ですね。モニターにEQをかけなくても、すごく制御しやすい。色付けも少ないですし。
―確かにおっしゃる通りで。
茨木氏)なのでクライアントさんはすごく喜んでくれますよ。
―同軸の良さもありますか。
茨木氏)あると思います。
―1031との組み合わせではいかがですか。
茨木氏)
レンジ感も違いますし、切り替えたとき、KSDのほうがいい意味で目立ちますね。
正直、今は1031はあんまり鳴らしてないです。笑
KSDに慣れてない人用のスピーカーって立ち位置ですね。
―クライアントさんの反応は大事ですね。
茨木氏)そうですね。KSDは印象がとてもいいので助かっていますよ。
―C88を試聴して即決でしたね。
茨木氏)そうです。あまり先入観無しで判断しました。一発OKでしたよ!
―ありがとうございます!C88での新たな発見のようなものはありましたか?
茨木氏)ポテンシャルは大いに感じます。ぱっと聴き感じいいですし、作業しやすいです。
―ミックスでもレコーディングでもC88は順応していますか。
茨木氏)ここでは主にレコーディングで使っています。レコーディングでは楽曲の良し悪し、演奏の良し悪しを判断しやすいモニターが必要ですので、C88は派手過ぎず、足らなすぎず、マイクと原音との距離感もしっかり感じ取れて、スタジオの響きも含めて、奥行き感がはっきりわかります。
―そうですよね。そこがKSDの特長ですよね。
茨木氏)ですのでここではミキシングというよりレコーディングの時にすごく重宝しています。
―レコーディングの時のマイクアレンジとかがわかりやすいとか。
茨木氏)そうです。演奏の良し悪しも含めて。あとミュージシャンの方もKSDを持っている方が多いのでC88に移行することに関しては、スムーズに移行できましたね。
―まだリファレンスとしてC88導入のスタジオは多くないですがこのサイズ感とスタジオのサイズ感はちょうどいいですね。
茨木氏)パワーもあってとてもいいですね。ラージスピーカーの代わりとまではいきませんが、ナチュラルに低域を感じられる、それは本当にすごいなあと感じました。ほんと買ってよかったです。笑
―KSDによく言われがちなことがあって、気持ちよく聴こえすぎてモニターとしてちょっと疑問もあるという点に関してはいかがですか。
茨木氏)勿論C88だけで作業しているなら問題ですが他のモニターも切替ながらですしそこは特に問題ないです。それよりもやはり判断しやすいっていうのはすごいメリットです。帯域のかぶりだったりとか、低域の感じとか、そういうのをC88で見極めるというのはありますね。確かにこれだけで進めるっていうのは、いい音すぎるっていう人の気持ちはわかります。
―でもまあ判断しやすいってことですね。
茨木氏)そうです。安心して作業ができる。
―色付けはないと思うんですね。
茨木氏)確かにレコーディングのときは自分の好きなモニターで仕事をしたいっていう方がほとんどですので、好みがわかれるところかもしれませんが、ただ基準になるモニタースピーカーが欲しいっていう方にはC88はすごくいいんじゃないかなあって思います。
―ニアフィールドモニターを選ぶ基準のような最低限の条件のようなものってありますか。理想のようなもの。
茨木氏)モニターを選ぶときは、実際に使ってみて、聴いてみての判断でしたので、決め手はずばりこのKSDの音ですね。音色、質感。
―より突っ込んで聞きますね。周波数特性について。
茨木氏)レンジはめちゃめちゃ広いです。すごく高いところから低いところまで。しかもサブウーハー使わないでしっかり表現できるので、この低域は安心ですよね。逆にサブウーハー使っているとモニターが正確かわからなくなってしまうというか。。
なのでモニタースピーカーとしては凄く安心感あります。
―2.1chってちょっと難しい感じが。セッティング次第では。いまは低域もLRが存在しますね。
茨木氏)そういうのが問われますね。サブウーハーも使いはしますけど録音の時はそんなに要らないかなあ。TD作業の部屋はサブウーハー使っています。最終的に確認するときはサブウーハーあったほうが良いなって。聴く人のモニター環境もイヤホンだったりとか、AirPodsとかなので。実際結構低音出てるし。
―そうです。
茨木氏)そこは結構クリアに、シビアに調整していかないととは思っています。
―あいまいにできないというか。
茨木氏)そうですね。昔みたいに視聴者が何で聴いてるかわからないみたいな、テレビ用とかラジオ用とか、そういうのを目指して作った時代もありましたけど、今は完全にスマホとイヤホン。だからそれを考えたら低音含めレンジ感はしっかり調整していかないと。
―確かに。
茨木氏)そういう意味ではサブウーハーってすごくありがたいって思うんですけど、逆に録音の時はちょっと邪魔というか、録音した音源をあらためて別の環境で聞いたとき、同じように再生するかどうかわからない。実際録れているものに対してのアプローチではない部分が結構あると思うので。
―そうですね。
茨木氏)だからこのC88はサブウーハーなしでこのフルレンジ感が聴けるってすごく安心感ありますよね。
―音像のボリューム的にちょうどいい。
茨木氏)そうです。バランスというか、上から下までスピードのある音が出るので。
―あと解像度についてはいかがですか。
茨木氏)いやもうすごく良いです。やっぱりスピード感あるんで。低域にもスピード感があって。
―KSDの特長でもある定位についてはいかがですか。
茨木氏)そうですね、音像がクリアな分、定位感もつかみやすいとは思います。定位って結構アコースティックな部分に引っ張られてしまうので、部屋のアコースティックの整ったところで聴くとより良さが鮮明になるんじゃないかなあと。でも困ったことはないです。一度もモニターに関して。
―パワー感、原音との忠実性とかはいかがですか。
茨木氏)この部屋に対してのパワーは十分ですね。レコーディングの時に必要なモニターって、ぱっと聴いての良さもそうなんですけど、ちょっと演奏の仕方とか歌い方を変えてみようとかの変化があった時、つまり原音に変化があった時に、変化に対してどれくらい忠実なのかという事なので。
―なるほど。その演者さんが表現する内容が変化した時に。
茨木氏)そうです。だから例えば少しニュアンスを変えて弾いてるのにそういう風に伝わらないとか、ちょっと歌い方の表情を変えたのにそういう風に聴こえないとか、そういう事があるとそれってやっぱりモニターの問題になっちゃうんで。そういう事はKSDには一切ないです。ちゃんと追従してくれる。
―流石。現場の声です。はいよくわかりました。
この度は貴重な機会を頂き本当にありがとうございました。
<プロフィール>
茨木 直樹(IBARAKI NAOKI)
1971鹿児島出身
1994ビクタースタジオ入社
2005ビクタースタジオ退社、フリーランスへ
2013株式会社ソラッソ設立
2018 TSUBASA STUDIOに拠点を移し、現在に至る