第22回 今井邦彦(Kunihiko Imai)氏
この度は取材をお受け頂きありがとうございます。
―本題に沿うつもりで単刀直入で恐縮ですが今井さんは今巷で多くのシェアのあるATCのモニターについてどうお考えですか。好きですか?SCM25A Pro MK2など。
今井氏)好きですね。信頼もあるし、でも実際あれが自宅環境で鳴らせるかっていうのは疑問があるという。それが自分にとってはネックだったんですよね。自宅では絶対に音場調整が必要だと思っていたから。ある程度は。
―そうですね。
今井氏)巷で噂の補正マシンをデモしてみましたが、それで補正かけると、「え、」っていうのは正直思いました。まあ確かにどこでも似たような環境にできるんでしょうけど。
―今回はご自宅の環境にモニターをお探しでしたね。今までは何をお使いだったのでしょうか。
今井氏)家では、KRK使ってました。 このスタジオもKRKでやってたんですよ。NS-10MとKRKの併用です。
昔から、KRK好きだったんです。90年代は、ずっとKRKで仕事してました。
―ちなみにKRKの型番は。
今井氏)家はV6でこのスタジオはVXTです。10年くらい使っています。で10Mでずっとやってると、さすがに今の時代になってやっぱり100Hz以下の扱いがすごく必要とされてくるので10Mだとわからなくなってくるので、KRKもそこはサイズ的に難しいと。でATCとかの必要性を感じてはいて。
―なるほど。
今井氏)このスタジオができたときもSCM25Aも聴きました。数人のスタッフと一緒に聴いたりして、結果は「ちょっと違うか。」と。
まあそれならKRKがお気軽でいいかという判断でした。値段もいいですし。
私が試聴した当時、ATC SCM25Aはまだそこまで浸透していなかった。このスタジオができた2008年くらい。
―もうその時期にはSCM25A Pro MK2はラインナップされていたんですね。
今井氏)数年後にイギリスで席巻し始めましたね。2010年頃から。で、その流れが日本に来たと。
―日本は動きが遅いですね。
今井氏)ええ、そしてBarefootも台頭していって。文化村スタジオのエンジニアさんも宇多田ヒカルさんのレコーディングでロンドンに行っていたりしてたからか、流行ったのは、それもありますね。ロンドンがATCすごかったんですよね。布袋さんもロンドンでATC勧められて買ってたし。
―なるほど、そういう流れがあるのですね。このスタジオでのATCはラージスピーカーになりますね。
今井氏)そうです。ウーロン舎のスタジオは、2000年からATCのラージ使ってます。
―KRK使っている期間が長いんですね。
今井氏)そーですね。僕KRK長いんですよ。1990年代から使っていて。
KRK出たばっかりのモデルを。代理店もない時代から。まだパワードじゃなかったのでパワーアンプも持ち込んだりしてました。サザン(Southern All Stars)やってる頃からKRK使ってました。
―その時代、YAMAHA NS-10M以外には皆さん何をお使いだったんでしょうか。
今井氏)Genelecですね。Genelec出始めですね。私は苦手でKRKが好きでしたね。KRKはもっとロックな感じがするから。好きでしたね。そういうイメージがあるから。
―なるほど。
今井氏)でもだんだんスピーカー持って歩くのがつらくなって(笑)2000年以降から10Mに移行したんです。当時は10Mだけでやると力入れてやってましたね。
―ニアフィールドモニタースピーカーに望む最低条件又は理想は何かありますか?
今井氏) 今までは、リスナーの聞いてる状態に近いことが大切でしたが最近の一般の人(若者)は、スピーカーを持ってない人が多くイヤホンが中心です。なので、ニアフィールドでは全帯域を確認できるものを望んでます。ラージモニターは、スタジオだけのものですからね。
―確かにそうですね。イヤホンやヘッドホンが主流ですね。
今井さんはKSDの事を知ったきっかけは何だったんですか。
今井氏)一番最初に聞いたのは知人のエンジニア(ミキサーズラボの石さん、ビクタースタジオの高須さんとか)ですかね。
Sound アトリエスタジオでデモしましたね。同軸のタイプを2機種。でもその時はちょっと違うなと思いました。
そうしてコロナが流行して自宅作業が結構増えたんですよね。で、家のKRKでやってて、「これはちょっと」と思っていました。
これは仕込みレベルまでしかできないなあと。
―なるほど。
今井氏)これで落とし込みまではきついなあとなって、でATC買うしかないかなあと思っていたんですが。
―その時に私の申し出を快く受け入れて頂き、ATCと同じ構成の3ウェイのKSD A200mk2をデモ試聴して頂いたんですよね 。
今井氏)はい、聴いた瞬間、もう即決でしたね。「あ、これだ。」と。ハイエンド、トップエンドまで下から上までの感じが好きだったんですよね。Genelecとは違うもうちょっとシルキーな感じ。最近Genelecの同軸スピーカーも人気ですよね。聴きましたが自分の触手は伸びなかったですね。もうちょっとちゃんとと聴いておけば違ったかもですけどね。あとはProAcもいいとは聞いていますよ。
―KSDはダークホース的な感じですね。
今井氏)びっくりですね。買うなんて全く思ってなかった。(笑)
―私もこのA200mk2が出た当初はこれに食いつく方が少なくて。
今井氏)なんでなんだろう。
―すごくいいんだけど。だけで。そんな感じでした。
今井氏)そうですね。上下伸びてる分、中抜け感を疑問に思うのかもですね。何人かが動くと違うかもですね。あとはリモコンがもう少しユーザーフレンドリーになってくれたらいいですね。
― KSD A200mk2について今井さんなりに採点するとしていかがですか。例えば周波数特性について。
今井氏)そうですね。トータル95点、中低域が、85点ですがこれに関しては全体的に満足しています。中低域についてはもう少しパンチが欲しいかなんというところです。
― 解像度に対してはいかがですか
今井氏)解像度に関しては95点。低域から高域まで分解能が高いですね。
― 定位についてはいかがですか。
今井氏)センターエリアは良いんですけど左右に半分以上離れていったときに少し緩く感じます。
― 原音との忠実性などはどう感じますか?
今井氏)原音との比較、忠実性は95点といったところでしょう。きちんと再現してくれます。ダメなものはダメと教えてくれます。パワー感についてはしいて言えば100Hz以下は、たっぷりしてて、よく分かるのですがその上のパンチが、もう一声欲しいですね。
― A200mk2を使い始めてメリットはありましたか?
今井氏)モニターが信頼できるので自宅作業が増えた昨今、家でミックスが完結できるようになりました。
この度は今井さんのようなレジェンドエンジニアにインタビューさせていただき光栄です。
今回は貴重なご意見本当にありがとうございました。
<プロフィール>
今井邦彦(Kunihiko Imai)氏
1959年生まれ
1983年 Starship Studio(現PowerHouse Studio)でアシスタントとしてスタート
1985年 Victor Studio 入社
1992年 フリーランスになる(マネージメント/OORONG-SHA)
現在に至る。
【Work List】
サザンオールスターズ /Mr.Children / Bank Band / My Little Lover
ゆず/レミオロメン / Salyu /イエローモンキー/Back Number
スガシカオ / エレファントカシマシ / Triceratops / Sylup 16g /
矢沢永吉 / 布袋寅泰 / 今井美樹 / 山下久美子 / 川江美奈子
大貫妙子 / JUJU / 一青窈 / 福原美穂 / 渡辺美里 / 小泉今日子
MISIA / 倖田來未 / 上間綾乃 / アンジェラアキ /森山直太朗 / 藤井フミヤ
MIYAVI / Mayday / あいみょん / ポルノグラフィティ / she’s
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