第26回 株式会社 IMAGICA Lab.CMプロダクション事業部 MAグループ北穣至(KITA JOJI)氏吉田玲一(YOSHIDA REIICHI)氏
―この度は取材をお受け頂きありがとうございます。2 年ほど前になりますが
銀座と麻布のMA スタジオにKSD C5-Reference を導入して頂き、取材を快諾頂きありがとうございました。ダブルキャスト取材は初でとても期待しております。どうぞよろしくお願いします。
―北さんからお聞きします。北さんはIMAGICA Lab.に入社されて何年目ぐらいですか?
北氏)僕は今年で 26 年目になります。
―あぁ、⻑いですね。大ベテランですね。吉田さんは何年目ですか。
吉田氏)僕は10 年目です。
―吉田さんも⻑いですね。お二人とも専門学校など出身ですか?
北氏)今、名前変わっちゃったんですけど音響技術専門学校、今でいう音響芸術専門学校卒です。
―そうなんですね。実は僕も同じです。僕は 16 期生です。担当は高木先生でした。
北氏)そう、高木先生でした。(笑)
―吉田さんはどちらですか?
吉田氏)僕は四大卒で東京工芸大学っていうところです。そこの映像学科出身です。
―そうでしたか。大学にもそういう専門の学科があるんですね。スタジオもあって。
吉田氏)そうですね。MA スタジオもあって、映像のことを 4 年間学んできました。
―お仕事的にはお二人は同じ立場なんですか?
北氏)そうですね。
吉田氏)肩書的には同じですね。
―そうなんですね。 MA 作業というか。
北氏)そうですね。コマーシャル中心な感じであります。
―私自身MA 作業内容自体はすごく細かくはわからないんでんですけど、もう 26 年前からでもだいぶそのシステムも変わったでしょうね。
北氏)そうですね。僕は入社してすぐ五反田の方に配属されたんですけど、まさにそのタイミングでスタジオから SONY PCM-3348(デジタルマルチテープレコーダー)が出されて。
―おぉ、そうだったんですね。
北氏)その時からFAIRLIGHT(フェアライト)でやり始めた変わり目のタイミングだったので、僕はマルチの時代を経験してないです。
―あ、そうだったのですね。
北氏)6 ミリとか使っていましたけど、スタートがDAW だったので。そこまで大きな変化は感じなかったんですがやっぱり卓に関しては大きく変化したと思います。
―専用のDAW ベースで。吉田さんも10 年のキャリアで、その時はもうこういうNuendo/ProTools ベースだったっていう。
吉田氏)そうですね。それこそ僕が入社したタイミングぐらいで切り替わったので僕は逆にFAIRLIGHT 触ってないんですよ。
―そうなんですね。ちょうどそのタイミングで。でもFAIRLIGHT は当時一世風靡していましたね。
北氏)やっぱりいい機械でした。
吉田氏)いいますよね。いい機械だったと。
―やはり専用機として存在していただけに使いやすいですよね。
北氏)ものすごく使いやすかったです。プラグインがあるわけでもなく、EQ/Comp ぐらいは付いてたかな?でも当時は卓とアウトボードでの音作りが主流だったので、本当に単純にDAW上に音が並んでいるっていう状態でしたけど、でもやっぱりポスプロ業務に関してはテイク管理とかがものすごく楽でした。作業スピードも早かったし。今思えばそれに使い慣れていたっていうのもありました。
―Nuendo/Protools ベースになってだいぶ作業が変わったっていう。
北氏)そうですね。特に音作りという面ではだいぶ変わりましたね。
―DAWが移行してメリットを感じましたか?
北氏)単純にそのFAIRLIGHT側の保守が切れるというか、もう撤退じゃないですけど。そういう時期でした。新しいそのコントローラーみたいなものも出てきていて、ただそれがいろんな機能を盛り込んだ結果、FAIRLIGHT本来の良さが損なわれた感じでした。そのシンプルな操作感が良さだったんですけど、結果ものすごく使いにくくなっちゃったという。このタイミングでProToos かNuendoかどちらかに移行しましょうみたいな感じで、私はFAIRLIGHTでずっとやってきたから、やっぱりFAIRLIGHTっぽく使えるのはどっちだろう?みたいな感じでした。
―業界全体がもうそういう流れで。
北氏)そうですね。業界全体がもうFAIRLIGHT離れじゃないですけど、結構いろんなところがFAIRLIGHTじゃなくなってきていたんで。
―それって何年ぐらいですかね?2010 年近辺?あ、そうですよね。Nuendo/ProTools に移行していってその音の扱いっていうのをだいぶ変わったんですか。
北氏)そうですね。まあ変わったんでしょうね。個人的には何かを意識して変えたわけじゃないけど。FAIRLIGHTの時はあくまでも音が並んでいるだけだったので、卓とスピーカーというのがメインだったけど、NuendoとかProTools になってから、今度はその画面の中の波形をマウスでいじることがメインになってきたんで、より細かいことができるようになったし。その分なんていうか、やらなくてもいいこともやっちゃうというか、今まで別に気にしてなかったことはすごい気にするようになったりとか、僕にとっては割とデメリットが多かったかもしれないですね。
―そうでしたか。もうちょっと簡潔にできたのにみたいな。
北氏)直感的にできたのにEQ のカーブとかなんかちょっとこれ出過ぎじゃないかな?みたいな見た目でやっちゃったりとか。今までは直感的にフィジカルにつまみでやっていたから、ビジュアル的に出てきてしまうと「何か出っ張りすぎだな」とか、その聴くだけじゃなくて見るっていうことに結構重きが置かれた時期もちょっとありましたね。今また直感的な方になってきてはいますけど。
―あぁ、そうなんですね。やっぱり最初出た頃は本当にやっぱそこに集中しますよね。
北氏)波形だとかレベルの値だとか EQ のカーブだとかコンプの数値だとか。なんかそういうものにこう囚われすぎたというか。
―見えすぎて困るみたいな感じですよね。
北氏)聴かなきゃいけないのに見ること。アシスタントで入ってきた子たちも見る方に集中しちゃって音だとか映像の方に目が行かないっていうのはやっぱり課題というか。
―なるほど。ところで北さんが入社されたときスタジオでスピーカーは何をお使いでしたか?
北氏)YAMAHA NS-10M ですね。ラージスピーカーもありましたがコマーシャルなのでほぼ 100% ヤマハですね。
―切り替えることもなく。
北氏)そうですね。劇場用だとか、イベント用って時に一応ラージで確認したりとかはあったけど、ほぼ聴かない人もいるくらいヤマハだけでした。
―吉田さんが入社されたときは何をお使いでしたか?
吉田氏)僕が入社した時は銀座、麻布勤務ではなくて五反田に配属されて、そこがCM だけではなくてドラマとか劇場予告とかをもやっていたので、ミキサーさんたちがラージ使ったりとかは多々あったんですけど。ムジークとかJBL、DYNAUDIO とかだったと思います。
―DYNAUDIO はここ麻布のスタジオのラージにも採用されていますね。
北氏)そうですね。元はというと、銀座のMA ルームがすごく評判が良くて、そこにDYNAUDIO が入っていたので、その良さを五反田にも引き継いで、レイアウトも似せたということでした。そこがベースになったから割とDYNAUDIO とYAMAHA っていう組み合わせがIMAGICA CM チームというイメージになっていったという感じです。最初五反田があって次に銀座ができて、五反田を改装する時にその割と銀座っぽい部屋づくりになっていきましたね。
―麻布のスタジオはそのあと。
北氏)だいぶ後からですね。18 年前ぐらいじゃないですかね。
―部屋の数は。
北氏)CM の部署で言うと、銀座に 2 部屋、麻布に 2 部屋で 計4 部屋ですね。
会社としては他に品川/赤坂/渋谷/大阪とかいろんなところにあるので、バラエティとかテレビ番組の部署を入れると部屋数はもっとたくさんあります。
―オーディオ的には銀座と麻布が同じ条件っていう。
北氏)だいたいそうですね。細かいところはまあ部屋ごとに違いますけど。
―じゃあ一気にYAMAHA10M からKSD C5-Reference に変更になったという事ですか?
北氏)そういうことです。
―その時KSD の存在は知っていましたか?
北氏)仕事で太陽企画さんに出張する機会があって、そこに行った時に初めてKSD を聴いてめちゃめちゃいい音だなと思ったんですね。
―太陽企画さんにKSD があった。
北氏)そうです。C5 のCoax。
―ああ、1 世代前のタイプですね。
北氏)いろいろなポスプロに出張させていただく事があって、そこにはムジークだったりとかアダムだとかいろんなモニターがあるんですけど、なんかスピーカーに感動したのは初めてで。聞いたら「KS digital というものなんです」と。写真撮って「太陽企画さんのスピーカーめっちゃいいよ!」ってスタッフにも言って。
―おお。
北氏)自分の中でもその時のミックスが今聴いてても、一番上がりが良かったんですね。
―すごい!
北氏)感動して調べたらそれがもう売ってないということがわかって。ただやっぱり自分の中ではKSD っていうのはずっと残ってて、ニアフィールドを替えようってタイミングでKSD も聴いてみようという話になりました。
―吉田さんはKSD の存在はご存じでしたか?
吉田氏)僕は社内のニアフィールドモニターを選定する時に初めて知ったっていう感じなんで、それまでは全然知りませんでした。聞いたことないぞ、っていうのが正直なところで。
―ではReference シリーズはデモの時に聴いたっていう感じですか。正直だいぶ印象違ったのですね。
北氏)だいぶ印象違っていて、正直言ってしまうとCoax の時の感動はなかったんですよ。
―Coax はアナログアンプ時代です。決定的に違うのが。あと DSP 経由してないから。レンジは多分Coax シリーズの方が狭いんですけど。その分やっぱりこうストレートっていうか、ナローレンジだけど、記憶に残りそうな感じですよね。
北氏)Reference シリーズを聴いた時に感じたのはCoax シリーズよりももっとパワフルだったんですよね。
―ええ。
北氏)今までは10Mで整音するけど、ある程度整ったらテレビから音出してテレビの音で調整したりとか。10M で大きい音でずっと作業する事はあまりなかったです。最初C5 を聴いた時にかっこいいなと思ったんですよ。音が。一番なんか楽しく仕事できそうだなっていう。スピーカーで出して仕事したいなって思ったのが選んだ経緯というか理由ですね。
―吉田さんはどうでした?10M からC5 への移行について。
吉田氏)イメージ的にやっぱり10Mの音って低域がすっきりしていて、ミドルレンジ向けのスピーカーという印象なので僕はあまり好みではなくて。よく言われていたのは、「このスピーカーでいい音になればテレビでもいい音に聞ける」という。「まあそうだよね。」って思いながらミックスしてました。でも今はラウドネスといった規格もあったり、やっぱりテレビだけで再生されないものになってきたじゃないですかCM も。
―そうですね。確かに。
―家電メーカーもそういうものに取り組んでいますしね。
吉田氏)ですからC5 は本当に時代にあったスピーカーだなと思います。結構不満がないですね。
―ありがとうございます。取材しながら感じるのは近年低域の処理の仕方が大きく変わったと思いますけど、MA の分野でもそういうのはやっぱあるのですか?
北氏)そうですね、低音が再生されない環境っていうのが、音楽とかそういうものに比べたらCM ってTV とか店頭の小さいモニターとか特に多いんですけど、最近は携帯でイヤホンで聴く人も増えましたし、昔よりは試聴環境が変わりましたね。ですから特にC5 になってからはすごく細かい調整でだいぶ印象が変わるし、そんなざっくり低域を切れないなっていうか。
―じゃあやっぱりC5 で変わったっていうのが結構あるんですね。
北氏)すごくあります。
―吉田さんはいかがですか。
吉田氏)音楽とセリフのバランスがすごくつけやすくなりました。今まではただセリフは硬く聞こえやすく、みたいな手法でしたけど最近は2MIX でやるのはのはもちろん、バラ素材、ステム素材で 1 からまた組み上げてミックス・マスタリングをするという事も多々あって。そこのセリフと音楽の関連のバランスの取り方とかも、C5 で鳴らしてこの楽器をもう少し減らしてとか、そこら辺がすごい分かりやすくなって。ただ声を硬くすればいいっていうだけじゃなくて。引き算を求められているっていうか。表現がすごくつけやすくなった感じはします。
―なるほどですね。勉強になります。クライアントさんによってはそういう細かい要求する人もいるんですか。
吉田氏)ざっくりとした印象で言う方はいらっしゃいますね。「なんかすごく強いです」とか「なんかすごく耳にきます」みたいな表現で仰るので、今までだと「そこの何が邪魔しているんだろう」と分かりづらかったところがC5 だとこの部分かなとかが判るので良いですね。
―出音を聴いてクライアントさんとディスカッションが始まってみたいな。
北氏)結構⻑いことやっていると何を気にされるか大体わかるので、それは前もって予想して前作業でつぶして、クライアントさんが最後聴きに来て「最終ミックスできました。聴いてください」で聴いてもらうかせると、このC5 だと「すごく良いですね」ってなりやすいです。
―それはいいですね。なるほど。
北氏)例えばですけど最近だとタクシーの中のCM、あれだとボリューム 1 ぐらいしか音出てないんですよ。ああいうのでちゃんと全部聞こえなきゃいけない。かなりモニターレベルを小さめにチェックしたりとかもするんですけど、C5 だとそんなにバランスが変わらないというか。
吉田氏)本当にそれはあって。モニターレベルを絞ってもただ減衰しちゃったなっていう印象じゃなくて、バランスが崩れないというか。そこのニュアンスが変わることはない。小さい音で聴いてもちゃんと聴こえてるな、テレビでも小さい音で聞いてみても全然いい感じみたいな。
―そうなんですね。なるほど、タクシー事情。
北氏)そういういかに小さい音でもちゃんと情報として入ってくるかってことはものすごく大事です。そこは他のレコーディングとはちょっと違うかもしれないですよね。
―確かにそうですよね。なんかこううるさくてもね。
北氏)うるさいなっていうネガティブな印象。かといって前に出ないとなんか印象に残らないものになっちゃうし。
―確かにそうですよね。本当に。意外と立ち位置が難しいですね。しかも音ですからね。映像だけ見る人たちもいますし。
―ちなみに吉田さんは音楽とかも好きで聞かれたりしますか?ジャンル的にどんなの聴かれるんですか?
吉田氏)そうですね。いろんな音楽聞きますけど、基本は海外の音楽が好きなので。特にインディーズ系のロックバンドとか。でも最近はヒップホップ系にめっちゃ目覚めてめちゃくちゃ国内国外のラッパーの出している音源を聴いてます。
―今すごく盛り上がっていますよね。
吉田氏)テレビ番組の影響かわかんないですけど、ヒップホップシーン日本でもすごいですよね。何だろう?やっぱりヒップホップみたいな音楽は、ドンシャリというか、特に低音がすごく出ていますね。
―音楽の作り手がすごいKSD を支持してくれていて、作る段階でやっぱり低域が聴こえてないとダメみたいで、なんかそこにすごい鍵があったんです。みたいなことをおっしゃっていました。そのバスドラの音程をすごい気にしないとみたいな。テレビも CM とかも多分そういう流れはあるんじゃないかなっていうのは思っています。
北氏)心がけていますよ。低域に限らずですけど。
吉田氏)僕も北さんもそうだと思うんですけど、音決める時にQ を絞ってゲインを調整してポイントを探してミックスするじゃないですか。そこがすごく解像度高いからやりやすくなったというか探りやすくなった気がしますね。高域中域ナチュラルさがすごいいいから。
―このメーカーの技術的な得意分野だと思います。
吉田氏)結局、ミックスしていて楽しいっていうのがあります。本当にモニター用とリスニング用の中間ぐらいにいる気がしますよね。
―ちょっとリスニングっぽいんですよね。もともとそのリスニングスピーカー作っているんで、そういうのは多分根底にあって社⻑がでプロオーディオも始めたっていうようなメーカーですから。
吉田氏)逆にそこを危惧しているミキサーはやっぱりいたというか。聞こえが良すぎるみたいな感じで。これでいいのか?全部が気持ちよくなっちゃうよ。みたいなことを言っているエンジニアさんもいたんですけど。
―確かに。でもその答えが出たという感じですね。本当にありがとうございました。これからも宜しくお願い致します。
<プロフィール>
株式会社 IMAGICA Lab.
北 穣至(Joji Kita)
音響技術専門学校卒業後
IMAGICA入社
主にTVやWebなどのCMの現場録音からMIXまでを手掛ける。
吉田 玲一(Reiichi Yoshida)
2014年度入社
TV やWeb などのCM を中心に、企業向けVP やMV、シネアドと幅広い分野でMA に携わる。
スタジオでのミックス作業のみにとどまらず、録音部として現場に向かうこともあれば効果音などのサウンドデザインも手がける。